10月13日(金)、スプリングバレーブルワリー東京で「ホップサミット2017」が開催されました。このサミットには、グロワー(ホップ生産者)やブルワー(ビール醸造家)が約50名集まり、国産ホップを盛り上げていくにはどうしたらよいかについて議論したものです。
ここでは、8名のパネラーによる「ホップグロワー×ビールブルワー パネルディスカッション」の一部をご紹介します。
「ホップサミット2017」に参加した50人超の前で開会の挨拶をする藤原ヒロユキ氏。
【パネラー】
吉田 敦史(岩手県遠野市)
鈴木 喜治(福島県田村市)
好地 史(京都府与謝野町)
片伯部 智之(宮崎ひでじビール)
戸塚 正城(オラホビール)
本間 誠(ホップジャパン)
田山 智広(スプリングバレーブルワリー)
藤原 ヒロユキ(日本ビアジャーナリスト協会)
【ファシリテーター】
富江 弘幸(ビアライター)
多彩なパネラー8名
富江:このディスカッションでは、国産ホップを盛り上げていくにはどうしたらよいか、グロワーとブルワーで連携して何ができるのか、ということについてうかがいたいと思います。まずは自己紹介からお願いします。
吉田:会社員から転職して岩手県遠野市で農業を10年、ホップ栽培は2年前から。遠野市の新規就農者の受け入れもやっています。
鈴木:生産者としてはまだ1年経っていません。福島県田村市でホップを栽培してくれる農家さんがいないため、何人かで実際にやってみようと無謀にも植えてしまったという状態です。
好地:京都府与謝野町のホップ生産者組合で研修をしていますが、地域おこし協力隊としてビール醸造にも関われたらと思って与謝野町に来ました。
片伯部:宮崎ひでじビールでは、ホップ栽培もしているということで、何かしらお伝えできればと思っております。
戸塚:オラホビールでは、2010年からホップ栽培に着手しました。現在は比較的安定的に収量も確保できていますが、いろいろと勉強しなければと思っております。
本間:ホップジャパンの本間です。ホップとビールを通して、人と人とがつながり、楽しい世の中になればと取り組んでおります。
田山:スプリングバレーブルワリーのマスターブルワーの田山です。実行委員としてイベントの企画にも携わらせていただいております。
藤原:フレッシュホップフェストの実行委員でもあり、与謝野町のホップ栽培アドバイザーもやり、ホップ栽培もやっていますので、ホップグロワーの立場でもあります。
国産ホップ栽培の課題とは?
富江:国産ホップ栽培では、いまどんな課題があるでしょうか?
吉田:遠野では、まず、ホップグロワーが激減しています。理由としては、肉体的に厳しいということ。また、ホップ栽培は利益率や売上などで恵まれた作物ではないにも関わらず、初期投資が必要で、ホップにしか使えない特殊な機械を購入しないといけません。
好地:与謝野町でも遠野の課題がほぼ当てはまると思います。これから若者が増えていけるシステムづくりが課題なのではと思います。
鈴木:やはり売上が課題。もうひとつは、ホップ栽培のノウハウがない。ある程度マニュアル化したものがないと難しいのではないかと思っています。
国産ホップを使うにはコストが課題
富江:では、ブルワーの方々が国産ホップを使おうと思ったときに、どういった課題があるのでしょうか。
戸塚:自社で栽培もしていますが、課題は使い方だと思います。その課題を乗り越えれば差別化が図れるのではないかと思っています。
片伯部:国産ホップは外国産と比べると価格が全然違います。それだけ人件費もかかっていますし。やはりコストが課題だと感じます。
どのように付加価値を付けていくか
富江:では、グロワーとブルワーが連携することで、どんなメリットが生まれるのか、ということについてうかがいたいと思います。
田山:グロワーとしては生産性を向上させていかにコストを下げるか。ブルワーは、いかに付加価値を付けていくかということを真剣に考える必要があります。国産でないとできないこと、これを我々がお客様の価値に変換して提供するということができてはじめてトータルの産業になります。パッションだけでは未来は明るくなりません。
また、国産ならではの品種が必要です。アメリカのクラフトビールを支えたのはアメリカのホップ。じゃあ、日本はどんなホップなのかというと、まだそれができていない。
もうひとつは、ウェットホップでないとできないことを追求していく必要があると思います。ブルワーとグロワーが一緒になって考え、そこからイノベーションが起こり、新しい日本ならではのビアスタイルがでるのではないかと思います。そのためには、グロワーとブルワーの連携だけでなく、ブルワーどうしの連携も必要。
本間:国産ホップでしかできないことにフォーカスしないといけません。今までと同じことをしていたら未来はないと思っています。例えば、ホップはその2割くらいしか使える部分がないと思いますが、残りの8割を利用できるようになると、もっと生産者が楽になるのではないでしょうか。
藤原:品種改良は難しくとも、同じ品種でも育った風土で若干の違いが出るのではないかなと。そういったところに期待はあります。また、グロワーも醸造の知識や消費者が何を望んでいるかということに興味を持たないといけない。
それぞれが目指すビアカルチャーとは
富江:最後に、パネラーの皆さんはどんなビアカルチャーを目指しているのか、ということについてお話しください。
吉田:野菜は自分で作って自分で食べることで、出来を感じることができます。ですが、今年の自分のホップがどうだったのかは、はっきりわかっていません。ブルワーとともにお話をすることで、ホップの出来を確認しながら、どう栽培していけば質が上がるのかということに挑んでいきたいと思います。個人的な夢ですが、ホップ栽培の知識については日本で一番になり、ホップの取材は全部私に来るようになる、というビジョンを描いています。
鈴木:ブルワリーもできて、ホップ生産者が増えて、農業や産品がうまくまわっていけばいいと考えており、ずっと関わっていきたいと思っています。また、ホップの宅配便も可能なのではないかなと思います。
好地:与謝野町にはまだブルワリーがありませんが、与謝野町のホップを与謝野町で醸造して、それを町の皆さん、全国の皆さんに飲んでもらいたいと思っています。それが国産ホップの盛り上がりにつながればと思います。
片伯部:宮崎はホップ生産に適していない地域です。そこでなぜホップ栽培をするのかというと、オール宮崎県産のビールを目標にしているから。やはり、グロワーとブルワーが協力して苦労しながらおいしいビールを造り、それをお客様が飲んでいる姿をグロワーに見てもらうと、グロワーもやりがいが出てくるんじゃないでしょうか。いずれ「ビールは畑から」「ビールは農業から」というのが当たり前の時代がくると思っています。
戸塚:ホップのテロワールがしっかり出て、商品にも反映されて、となれば面白いのではないでしょうか。それをしっかり私たちが商品として提供するという環境をもう少し大きい規模でできるようにしたいです。
本間:ホップ栽培は土地が必要ですし、田舎でしかできない。今後はもっと田舎が注目されるのではないかと。そのひとつのツールとしてホップとビールが注目されて、新しい田舎暮らしが体験できるモデルをつくっていきたいと思っています。
田山:ブルワーとしては国産ホップならではの世界を見出したいですね。見出すだけではなく、それを大きくしていくのが課題。さらに、フィードバックが大事で、ブルワーとグロワーがマッチングして盛り上がっていければと思います。
藤原:キリンビールは、50年以上前に東北や北海道に投資しました。そのホップをクラフトブルワリーに卸すということを考えたら、クラフトブルワリーにも投資してもらいたいと思っています。初期投資を考えると4、5年は利益が出ませんし、それを農家だけに背負わせてはいけないなと思います。
だからこそ、自分のホップはしっかりとビールが造れるブルワーに造ってもらいたいのです。今回は、与謝野町のホップを使ってスプリングバレーブルワリーで田山さんに「藤原ヒロユキスペシャル」という素晴らしいビールを造っていただいて感激しました。
もうひとつは、自分たちがつくったものにフィードバックできないというのが問題。極端なことをいうと、ホップ生産地を「ホームブリュー特区」にできないかなと。自分たちでテストバッチくらいはできないと、ホップ生産地としては恥ずかしいのではないでしょうか。
富江:これが国産ホップを盛り上げるきっかけになれば幸いです。本日はありがとうございました。